第十五話




「うわぁ〜〜ん!!ラースロが僕のラジコンとったぁ〜!!」

「おいおいラースロ、またレオーの奴が泣いてるぜ」

「ふん。返して欲しけりゃ自力で奪ってみろってんだ」

「うわぁぁぁあ〜〜〜ん!!!」


レオーは涙と鼻水にまみれながら果敢にもラースロにヘナチョコパンチをかました。ポコン、と間抜けな音がした。


「あ、レオー。ふーん……お前、そんなことしていいのか? あぁん!?」

「びえぇぇ〜〜ん!! ジグモンド〜〜〜!!」


胸倉を掴まれたレオーは更に泣き叫んで助けを呼んだ。すると、豪快にドアが開いて、勢いよく入ってきたジグモンドが正義の味方らしいポーズを決めた。部屋は一瞬静まり返った。


「レオー! どうした!」

「ラ、ラースロがいじめるんだよぉぉお〜何か道具を出して!!」

「むむ、レオーのピンチ! ラースロめ、よくものび○君を……いや、レオーを泣かせたな!」


泣きじゃくるレオーを庇いながらジグモンドは背後からなにやら取り出した。


「ジャジャジャジャーン! お助け貯金箱〜〜!!」

「……うっ……うっ……何、それ」


ただの豚さん貯金箱にしか見えないものを掲げて誇らしげなジグモンドに、レオーは不安そうに尋ねた。


「これはだな〜。ほら、普通の貯金箱と少し違うんだ。どこだと思う?」

「うーん……お金を入れるところが少し広いね」

「正解〜! そう、この貯金箱はお札しか入らないんだ!」

「……で?(汗)」

「ここに千円入れるとジグモンド様が悪い奴にパンチをかます。五千円札だと回し蹴りを放つ。一万円札だと負けそうになるまで戦ってやる!」

「…………(汗汗汗)」

「さぁ、お札を入れなさい!」

「ご、ごめん。いいや……(汗)」

「何!? てめ、呼んでおいてそれはないんじゃないの!?」


ジグモンドはレオーの頭を手加減無しに引っぱたいた。レオーは再び泣き出した。







部屋の扉を開け、後ろ手で閉めたときになんだかいつもより重い気がしてふと振り返ると、そこには縄でがんじがらめにされて吊るされたレオーの姿があった。この屋敷の持ち主であるシャンドールは目の前の少年の哀れな姿につつーと冷や汗をたらした。


「……お前ら……何やってんの……(汗)」

「あ、いっけね☆ ばれちった」

「ばれるわ!!(汗)」

シャンドールの鋭い突っ込みを華麗にスルーし、ジグモンドは座っていた机からピョンと飛び降りて、彼の元に駆け寄った。


「なぁ、あれやんなきゃ。タイムマシン。たぶん直せる。シャンドール、手伝ってくれよ」

「そういえば。あの三人組を返してやんないとだしな。やるか」


一瞬ちらりとレオーを見やったが、ジグモンドの溌剌とした笑顔に速攻で意識を持っていかれたシャンドールは、ジグモンドとともに部屋を出て行った。残されたヤノーシュ、ギゼラ、ラースロもそれぞれの部屋に引き上げ、ドアの裏に吊るされたレオーはすっかりその存在を忘れられていた。


「……ゆ…許さない……(怒)」


静まり返った部屋で呪いのように呟かれた言葉を聞いたものはいなかった……。







次の日。

カーテンの隙間から差し込む朝の光に、サダルはうっすらと目を開けた。反対側のソファでは聞き耳がまだ眠っている。思い切り伸びをして目を覚ます。寝起きはいい方だった。ベッドから降りて、ソファからずり落ちていた毛布を聞き耳にかけてやった。昨晩はオウスとロックウェルと聞き耳がいなくなったあと、一人でテレビを見ていたはずだが……(ちなみにポ○ットモンスター)。それ以降記憶がないということはきっとそのまま寝てしまったのだ。恐らく帰ってきた聞き耳がベッドに運んでくれたのだろう。

その時、聞き耳の枕元で何かが電子音を鳴らした。折角寝ているのに起こしてはいけない、とサダルは音の発信源のリモコンのようなものを取り上げ適当にボタンを押した。すると音は止んだ。聞き耳も気がついていないようでまだ寝息を立てている。サダルはほっと胸を撫で下ろした。

部屋も貸してもらっているわけだし、彼のために何かしてやろうと思い、サダルは台所に立った。よし、と腕まくりをし、さっと辺りを見渡した。包丁はわかる。菜箸もわかる。だがそれ以外は全く見たことのないものばかりでサダルは途方にくれた。


(これ……なんだろう?)


目に付いた取っ手を引いてみると網が出てきた。魚を焼くときの網に良く似ている。だがこんな引き出しの中では火を使うことができない。サダルは首をかしげた。近くにあった丸い取っ手も引いてみた。どうやら引くものではないらしいので押してみた。押すものでもないらしい。もう一度思い切り引いてみたときにぐるっと取っ手が回転した。と、同時に四角い箱の一部分から火が噴出して、驚いたサダルは絶叫して後ろに飛びのいた。


「……やばい(汗)」


消さなければ、と辺りに目を走らせても水らしきものは見渡らない。困惑したサダルのもとに、叫び声に飛び起きたらしい聞き耳が駆け寄った。


「な、何やってるんスか!」

「……火事……」

「…………(汗)」

「ごめん……何か作ってあげようと思って……」

「……その気持ちは嬉しいッスけど、もう時間もないんで顔でも洗って待っててくれるッスか(汗) 着替えるッスから」


朝っぱらからげんなりと肩を落とした聞き耳はサダルを洗面所に連れて行き、水の出し方などを教えてやった。


(はぁ……。原始人は扱いが大変ッス……)


ちなみに原始人というわけではないのだが……。
ロックウェルはどうしてるだろうとふと考えたとき、壁を隔てた彼の部屋から大掃除でもしているかのような激しい物音がした。ひときわ大きい音がし、それを境に数秒間静まり返った。聞き耳が無意識に息を潜めていると、直後にロックウェルの怒号が耳を劈いた。
あっちよりはマシだ……と聞き耳は自分を慰めた。





携帯で設定していたアラームがなぜか鳴らなかったため、朝ごはんは適当にコンビニで買うことにし、サダルと聞き耳は外に出た。が、同時に開いた隣の部屋から出てきた人物を見て、二人はぎょっとした。


「あ、サダル! ……とその他。おはよー♪」

「オ……オウス(汗) その格好は……」

「これ? いいだろ? ロックウェルに貸してもらったんだ」

「へぇ……そうですか(汗)」

(ってかその他って何なんスか……/汗)


グレーのコンパクトなピーコートに黒いワークパンツ、ダークブルーのハイカットのバンズを履きこなしたオウスはご機嫌のようだった。
後ろから制服を着たロックウェルが頭を抱えて出てきて、聞き耳は心の中でお疲れ様と労い、サダルは心の中でゴメンナサイと謝った。


「さぁ、行こう。どうした、ロックウェル。元気ないな!」

「いや……別に(汗)」